家に連れて帰りたいと話していた家族が、その日のうちに施設も考えたいと言う。
必要な準備を説明しても、何を前提に進めればよいか分からなくなることがあります。
私は療養病院で、経管栄養や吸引などのケアが必要な方の自宅退院を支援した経験があります。
ご家族の意向が変わる中で、約3か月にわたり面談と介護指導を重ね、多職種と地域の支援者で準備を進めました。
この記事では、実際に難しかった点と行った対応を振り返り、今なら最初に何を共有したいかを整理します。
MSWとして退院支援が難しかったのは希望が定まらない場面

その病院では自宅退院の経験自体が少なく、関係職種も試行錯誤していました。
必要なケアの準備に加え、ご家族の希望と不安を、職種間でどう理解するかが大きな課題でした。
自宅と施設の間で家族の意向が揺れていた
自宅でサービスを使いたいと話した後に、やはり家での介護は難しいと言い、別の職員にはサービスなしでも看られそうと話すことがありました。
私はどの意向をもとに調整すればよいか分からず、戸惑いました。
前と違いますねと確認すると、泣いたり怒ったりする場面もあり、変更点を確かめるだけでは話が進みませんでした。
振り返ると、言葉の矛盾を正すより、その時に何が不安で、何が分かれば生活を考えられるかを確かめる必要があったと感じます。
家族の希望だけでは必要な支援量が決まらなかった
当初、ご家族には必要な介護を担った経験や技術が十分にありませんでした。
自宅で介護したい気持ちを聞く一方で、実際に必要なケアを知り、取り組めることを確認する必要がありました。
介護への意欲と、技術の習得、時間や体力の余裕は別の条件です。
覚悟があれば大丈夫と考えず、具体的な生活場面に分けて検討することを勧めます。
医療ソーシャルワーカーが退院支援で最初に整理したこと

私は、退院後に必要になる看護と介護を説明し、どこまで家族が対応できるかを確認しました。
MSWだけでケアの可否を判断せず、病棟での指導と評価を踏まえて、家族が担う部分とサービスで補う部分を考えました。
- 日常生活で必要な介助の内容
- 医療的なケアと実施の頻度
- 家族が経験していることと未経験のこと
- 指導や練習が必要なこと
- 利用を検討するサービス
- 家族が休む時間と代わりの支援
できるかを聞くだけでなく指導後に確認する
このケースでは、おむつ交換や体位変換、移乗、経管栄養や吸引などが検討課題でした。
こうした行為の実施方法や安全性は、医師や看護師などが個別の状態を踏まえて評価・指導する必要があります。
MSWが電話でやり方を教えたり、一度説明を受ければできると判断したりするものではありません。
指導の進捗を共有し、どの場面で支援が必要かを確認することが調整の土台になりました。
家族の担当を増やすことだけを目標にしない
最終的に多くの介護を担えるようになったケースですが、それをすべての家族に求める基準にはできません。
同じ手順を行えても、毎日続けられるか、夜間に休めるか、体調を崩したときに誰が支えるかは別に考える必要があります。
サービスの利用可否や提供時間、費用などをケアマネジャーや事業所と確認し、家族の負担が一人に集中しない方法を検討してください。
本人の意思確認が難しい退院支援でMSWが気を付けたいこと

このケースでは失語症があり、私は入院中のご本人の意向を十分に確認できませんでした。
そこで、入院前に希望を聞いていなかったか、ご家族や担当ケアマネジャー、利用していたサービスの相談員へ確認しました。
家族の希望と本人の過去の発言を分ける
家族が自宅で支えたいことと、本人が自宅を望んでいたことは、同じ情報ではありません。
本人が実際に話していたこと、家族や支援者がそう考える理由、まだ分からない点を分けて残す必要があります。
厚生労働省のMSW業務指針でも、患者の主体性の尊重と意思決定支援が位置付けられています。
失語症があることだけで意思がないと扱わない
言葉で話せないことと、意思を持っていないことは別です。
今同じケースを担当するなら、言語聴覚士などとも相談し、ご本人が理解しやすい示し方や意思を表す方法を検討したいと考えます。
意思を表すための支援を試すことと、過去の生活や発言から希望を推定することを、どちらか一方で済ませないようにします。
これは当時すべて実施できたという経験談ではなく、現在の振り返りです。
退院支援の面談に看護師長が同席して助けられたこと

ご家族の希望で、入院中は繰り返し面談を行い、不安の確認とサービス内容の整理を続けました。
病棟の看護師長に時々同席してもらい、介護指導で確認できたことを一緒に説明できたことが助けになりました。
MSWと病棟で現在地を共有する
介護指導を毎日行う職員と、退院後のサービスを調整するMSWでは、持っている情報が違います。
指導でできたこと、まだ不安が残ること、家族から出た疑問を共有すると、面談でも同じ前提で話しやすくなります。
ご家族が相手ごとに異なる話をする場面でも、職員がそれぞれの説明だけで方針を決めないことが必要でした。
その日の結論だけでなく不安と未決定事項を残す
面談後は、自宅か施設かの結論だけでなく、何を心配していたか、何が分かれば次に進めるかを残す方法があります。
例えば、指導後にできるようになった動作を確認し、そのうえで家での時間帯ごとの負担を考える、と次の検討へつなげます。
同じ説明を繰り返すだけでなく、情報や経験が増えたことで何が変わったかを見直してください。
自宅退院につながった結果とMSWとして残したい限界

最終的には、デイサービス、訪問看護、必要に応じたショートステイを組み合わせ、自宅へ退院しました。
ご家族も指導を通して多くの介護に対応できるようになり、退院の日は関係職種で達成感がありました。
退院できたことと生活が続くことは分けて考える
ここでお伝えできるのは、退院までの支援と当時の結果です。
退院後の生活が長期にわたり問題なく続いたかまでは、この経験だけで説明できません。
サービスの利用計画とともに、退院後の連絡先、ケアの負担が増えた場合の相談先も、地域の支援者へ引き継ぐ必要があります。
同じ頻度の面談をすべてのケースに勧めるわけではない
連日の面談はこのケースで行った対応であり、難しいケースなら必ず同じ頻度が必要という意味ではありません。
相談の目的、参加する職種、家族の予定、部署の体制を踏まえて方法を考えます。
対応が一人のMSWだけに集中する場合は、必要な支援量として上司に共有してください。
難しい退院支援を始めるMSWの確認メモ

今同じ状況なら、家族の発言の変化だけを追う前に、本人の意思確認とケアの準備状況をチームで整理したいと考えます。
次の項目は、今回の経験から作った確認用の例です。
- 本人の意思を確かめるために試せる方法
- 家族の希望と具体的な不安
- 実施できるケアと指導中のケア
- 在宅サービスで補える範囲
- 日中と夜間の負担と代替支援
- 次の面談で確認することと参加する職種
必要な支援を整理しても地域の体制や費用などで難しい場合は、解決を約束せず、未解決の条件を上司や医療チームと共有します。
本人と家族双方の意向と負担を確認しながら、候補を見直していくことが必要です。
まとめ:MSWの難しい退院支援は意向と準備を分けて共有する

私が経験したケースでは、家族の意向が揺れる中で、繰り返す面談と介護指導、多職種との共有を通して自宅退院の準備を進めました。
大切なのは家族の希望を固定させることではなく、本人の意思を確かめる努力を続け、何ができて何を補う必要があるかを一緒に考えることです。
行き詰まったら、本人の希望、家族の不安、ケアの準備、地域の支援を分けて書き出し、どこを誰と確認するかをチームで決めてみてください。
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