患者や家族の希望を伝えたのに、看護師やリハビリ職との支援方針がそろわない。
多職種連携でそんな行き違いを経験すると、自分の伝え方が悪かったのか、どうすれば協力してもらえるのかと悩むことがあります。
連携を立て直すには、希望する退院先だけでなく、その希望の背景、必要な介護への理解、専門職が懸念することを、同じ場で確認することが出発点になります。
ただし、本人や家族の希望が強ければ、安全面の課題が解消するわけではありません。
私は実務経験10年のMSWですが、在宅希望を十分に共有できず、介護指導が退院間近になってしまった経験があります。
この記事では、その経験を振り返りながら、意向を伝えるときに不足しやすい情報と、方針が合わないときの相談方法を整理します。
MSWとして経験した在宅希望と多職種の判断の行き違い

私の失敗は、自宅に帰りたいという意向を伝えても、その背景や家族の思いまで共有しきれていなかったことです。
まずは、どこで認識がずれ、伝え方を変えた後に何が進んだのかを振り返ります。
在宅希望を伝えても介護指導につながらなかった
寝たきりの患者と、介護力に課題のある家族が、自宅への退院を希望していたケースがありました。
私はその意向を伝えていましたが、病棟の看護師やリハビリ職は、患者の状態から自宅での生活は難しいと判断していました。
支援の方向性がそろわず、必要な介護指導を十分に進められない状況になりました。
振り返ると、家族が自宅で介護したいと強く望んでいることを、私から現場へ伝えきれていませんでした。
一方で、看護師やリハビリ職には、日々の状態や介助の必要性を見た上での懸念がありました。
どちらか一方の意見を通すことではなく、希望と懸念を一緒に確認する必要があったと思います。
MSWが把握した思いを記録と会議で共有し直した
その後、家族が私に伝えた思いや言葉をカルテに記載したり、カンファレンスで報告したりして、支援方法の統一を図りました。
本人・家族の意向が多職種へ伝わり、退院時期が間近に迫った頃からではありましたが、介護指導を行うことができました。
相談相手として頼ったのは、同じ病棟を担当するMSWや、話を理解し、客観的に意見をくれる病棟の看護主任でした。
この経験で確認できる変化は、意向を共有し直した後に介護指導につながったことです。
この経験をもって、在宅生活の安全性や長期的な成果まで示せるわけではありません。
MSWが多職種連携で失敗したときに確認したい3つのズレ

連携の行き違いは、話すのが上手かどうかだけでは説明できません。
私の経験からも、希望、懸念、次の対応のどこがそろっていないのかを分けると、話し合うべき点を整理しやすいと考えています。
- 本人・家族の希望とその背景が共有されているか
- 各職種が難しいと判断している理由が分かるか
- 次に誰が何を確認するか決まっているか
退院先の希望だけが伝わっている
自宅を希望しているという情報だけでは、家族が何を理解し、どんな不安や覚悟を持っているかまでは分かりません。
本人が望む生活と、家族ができると考えている介護も、分けて確認する必要があります。
ただし、家族の強い意思を、介護が実行できることの証明として扱わないようにしましょう。
難しいという結論だけで話が止まっている
自宅は無理という結論に対して、帰りたいという希望だけを繰り返すと、議論が進みにくくなります。
どの介助が必要で、誰がどの場面に懸念を持っているのかを、看護師やリハビリ職に確認します。
専門職が示した評価と、MSWが把握した生活状況を持ち寄り、追加で確認する課題を整理してください。
依頼したつもりでも担当と次の確認が決まっていない
方針を共有したつもりでも、誰が家族へ説明するのか、何を確認してから指導を検討するのかが曖昧な場合があります。
会議では意見を聞くだけで終えず、担当する職種と次に確認する時期まで、無理のない範囲でそろえましょう。
医療ソーシャルワーカーが多職種に本人と家族の希望を伝える準備

伝える前に、本人の意向、家族の意向、専門職の評価を分けて整理しておくと、何が確認済みで何が未確認かを示しやすくなります。
ここでは、在宅希望を共有するときに押さえたい点を、記録と説明の両面から考えます。
本人の希望と家族の希望を一つにまとめない
家族が自宅で介護したいと思っていても、本人も同じ気持ちとは限りません。
誰がどのような希望を伝えたのかを明確にし、本人への確認ができていない場合は、そのことも共有してください。
厚生労働省の医療ソーシャルワーカー業務指針では、多職種との連携に加え、患者の主体性の尊重や権利擁護が示されています。
希望を支援につなげる際も、MSWが一人で結論を決めるのではなく、本人を中心にチームで検討する姿勢が基本になります。
出典:厚生労働省 医療ソーシャルワーカー業務指針(日本医療ソーシャルワーカー協会掲載)
現状と必要な介護をどう理解しているか確認する
家族が帰宅を望む理由とともに、退院後に必要な介護をどう理解しているのかを確認します。
私自身、当時は現状と必要な介護について説明した上で、なお在宅を望む家族の反応まで、カンファレンスで伝えるべきだったと振り返っています。
医学的な見通しや介助方法の詳しい説明は、医師、看護師、リハビリ職など、担当する専門職と調整してください。
説明を受けたことと、内容を理解して実行できることは同じではないため、何に不安が残っているかも確認しましょう。
MSWの記録は発言と自分の解釈を分ける
家族の言葉を共有する際は、実際に確認した発言と、自分がそこから読み取った気持ちを区別します。
正確な言葉を確認できない場合は、引用の形にせず、意向の要約として記録してください。
また、患者・家族の情報は、支援に必要な範囲で院内のルールに沿って扱い、私物の端末などへ無断で持ち出さないようにします。
MSWのカンファレンスで希望と懸念を次の対応へつなぐ

カンファレンスの目的は、MSWの意見を通すことではなく、本人の生活に向けて、各職種が何を確認し支援するかをそろえることです。
発言する内容を絞り、希望、懸念、相談したい対応の順に整理する方法を紹介します。
- 本人と家族が希望していることを分けて伝える
- 必要な介護について確認できたことを共有する
- 各職種が懸念している点を確かめる
- 次に確認する内容と担当を決める
多職種に意向と相談したいことを伝える
以下は当時の発言の再現ではなく、会議で使う伝え方の例です。
伝え方の例:本人と家族は自宅への退院を希望しています。
必要な介護についての理解と、実際に対応できる範囲を確認したいです。
伝え方の例:現時点で在宅生活が難しいと考えられる点を、看護とリハビリの立場から教えてください。
伝え方の例:その課題を踏まえ、説明や介護指導をどの段階で検討するか相談したいです。
こうした聞き方をする場合も、介護指導さえ行えば退院できると約束せず、安全面や利用できる支援を併せて検討します。
方針が変わったら記録と関係者への共有をそろえる
会議に参加していないスタッフもいるため、話し合った結果は院内で決められた方法で記録・共有します。
確認できた方針と、まだ合意できていない点を分けることも大切です。
私の経験でも、カルテとカンファレンスの両方で思いを共有し、支援方法をそろえようとしたことが、介護指導につながるきっかけになりました。
ただし、共有の方法やタイミングは職場によって異なるため、緊急性のある情報は記録を読むのを待たず、院内の連絡手順で伝えてください。
多職種連携で行き詰まったMSWの相談先と対応

相手の意見が変わらないとき、同じ説明を一人で繰り返すだけでは限界があります。
支援を止めないために、ケースを客観的に整理できる同僚や、現場と一緒に対応を考えられる人へ相談する方法を考えましょう。
現場の懸念を一緒に整理できる人に頼る
私は、同じ病棟を担当するMSWや、客観的に状況を判断して意見をくれる看護主任に相談しました。
新人の方にも、安心して相談でき、必要な情報を現場へ共有して行動につなげてくれる看護師を見つけることを勧めたいです。
特定の人を味方につけて他職種を説得するのではなく、双方の情報を整理し、必要な話し合いにつないでもらうことを意識してください。
個人の伝え方と組織の仕組みを分けて考える
確認しても担当が決まらない、会議で方針を検討できないなどの場合は、部署間の連絡や役割分担の課題も考えられます。
直属の上司や病棟の責任者へ、どこで支援が止まっているのかと、必要な協力を具体的に伝えましょう。
連携の問題を、自分の能力や努力だけで引き受ける必要はありません。
医療ソーシャルワーカーの多職種連携に関するよくある質問
伝え方を工夫しても、依頼を断るべきか、記録だけでよいのかなど、日々の場面で迷うことがあります。
ここでは、連携を進める際に残りやすい疑問を補足します。
介護タクシーの手配などはMSWの仕事ではないと断ってよいですか?
作業名だけで一律に判断せず、依頼の目的、患者の状況、院内の役割分担を確認してください。
対応が重なる場合は、必要な支援を止めずに誰が担えるか、上司や依頼した部署と相談します。
希望をカルテに書けば伝えたことになりますか?
記録は共有の手段ですが、それだけで相手が内容を確認し、同じ方針で動けるとは限りません。
対応の変更や早急な判断が必要な場合は、口頭など院内で定められた方法も使い、誰に何を確認してほしいかまで伝えましょう。
家族の希望をそのまま伝えると安全面を軽視していると思われませんか?
希望と実現の見込みを分けて説明することが大切です。
在宅を希望している事実を伝えた上で、安全面の懸念、未確認の条件、必要な専門職の評価も一緒に共有してください。
希望を尊重することは、課題が解決していない段階で在宅退院を約束することではありません。
まとめ|MSWの多職種連携は希望と懸念の共有から
多職種連携に失敗したと感じたら、希望を伝えたかだけでなく、その背景や懸念、次の対応まで共有できていたかを振り返ってみてください。
私の経験では、家族の思いや言葉をカルテとカンファレンスで共有し直した後、退院間近ではありましたが介護指導を行うことができました。
この経験から、本人・家族の思いを丁寧に伝えることと、現場の懸念を一緒に整理できる相談相手を持つことを大切にしています。
まずは支援が止まっているケースを一つ選び、本人の希望、家族の希望、各職種の懸念、次に相談したいことを分けて整理してみましょう。
一人で結論を出そうとせず、必要な人と同じ場で話し合うことが、支援方針をそろえるための一歩になります。
くに丸 SW BLOG